「もっとポジティブに考えよう」
「環境を変えれば人生は好転する」
「自分を好きになれば道は開ける」
……もしあなたが、そんな手垢のついたアドバイスに耳を傾け、それでもなお「人生が楽しくない」と停滞しているのなら、一つ残酷な事実を告げなければなりません。
あなたが抱えているその虚しさや苦しみは、あなたの性格や環境のせいではありません。
あなたの脳内に棲みつく「原始脳」という「生き残り戦略」の仕業です。
多くの人は、自分の思考を自分の意志だと思い込んでいます。
しかし、その正体は、数万年前からアップデートされていない「今だけ・損得だけ・自分だけ」という生存本能に大きく影響を受けた操り人形のようなものに過ぎません。
この記事は、あなたの傷口に塩を塗るために書いたのではありません。
心理学や精神論という「表面的な塗り薬」では決して治らない、あなたの苦しみの正体を脳科学的な視点から解剖し、強制的に視点を書き換えるためのものです。
これからお話しするのは、巷に溢れる「人生の楽しみ方」とは一線を画しています。
もし、あなたが「このまま虚しい一生を終えるのは御免だ」と本能的に感じているのなら、このまま読み進めてください。
読み終えたとき、あなたの世界の見え方は、嫌でも「人生楽しんでナンボ」という境地にシフトしているはずです。
第1章:人生楽しくないと感じる原因と心理学的背景
1-1. なぜ「毎日がつまらない」という感覚が消えないのか
「今日もまた、昨日と同じ一日が始まる」
朝、アラームの音で無理やり意識を引き戻されたとき、そんな絶望感に似た溜息をついてはいないでしょうか。
本来、私たちの脳の深層にある「原始脳」は、不安や不快から逃れ、ただ「安心と心地よさ」を享受するために進化してきました。
猛獣に怯える必要もなく、雨風をしのぐ家があり、指先一つで食事が届く現代は、原始脳にとっては文字通りの「天国」のはずです。
しかし、現実はどうでしょうか。
皮肉なことに、私たちは原始時代よりもはるかに多くの「不安」と「不快」に晒されています。
かつての敵は「目の前の猛獣」という明確な存在でした。
しかし現代の敵は、SNSで見せつけられる他人の幸福、将来の不透明な経済状況、終わりのない仕事のプレッシャーなど、実体のない、逃げ場のないものばかりです。
原始脳はこれらの刺激を「生存の危機」と誤認し、常にアラートを鳴らし続けます。
さらに、私たち人間には発達した「思考脳」があります。
ただ生き延びればよかった動物的な時代とは違い、私たちは思考によって「満足感」や「幸福感」という高度な概念を持ってしまいました。
ここに、現代人の逃げ場のない悲劇が生まれます。
「不快を避け、安心したい原始脳」と、「もっと幸せになりたい、意味を見出したいと願う思考脳」の強烈な矛盾です。
原始脳が現代社会のノイズに過剰反応して不安を掻き立てる一方で、思考脳は「こんなはずではない、もっと楽しい人生があるはずだ」と理想を追い求めます。
この両者の板挟みになり、引き裂かれた結果、行き場を失った感情が「人生楽しくない」という重く冷たい虚無感となってあなたを支配しているのです。
あなたが今感じている「つまらなさ」は、あなたが怠惰だからではありません。
天国のような環境で地獄のような刺激を浴び続け、理想と現実の矛盾に喘いでいる、あなたの脳の「構造的な悲鳴」なのです。
1-2. 仕事・人間関係・将来……領域別の「楽しめない理由」
では、なぜ私たちの日常はこれほどまでに色褪せて見えるのでしょうか。
領域別にその「正体」を解剖してみましょう。
【仕事】「歯車」という名のエネルギー漏れ
大昔の労働は、「獲物を仕留める」「木の実を採集する」といった、生存に直結するダイレクトな成果に結びついていました。
動けばその場で飢えが満たされる。この「行動と報酬の即時性」こそが、原始脳を突き動かす唯一の燃料です。
しかし、現代の仕事においては、思考脳と原始脳の間で深刻な「認識のズレ」が生じています。
思考脳は知っています。
「今、この目の前の退屈なスライド作成を頑張れば、月末にはそれなりの給料が振り込まれ、生活は維持できる」と。
これは極めて論理的で正しい判断です。
ところが、あなたの原始脳は全く別の叫びを上げています。
数万年前のOSを積んだ原始脳にとって、数週間後の「振り込み」という抽象的な未来の報酬は、理解不能な概念でしかありません。
原始脳にとって、目の前の苦労が「今すぐ命を繋ぐ肉」に直結しないとき、それはただのエネルギーの浪費に見えるのです。
さらに厄介なことに、原始脳は「報酬」を感じられない代わりに、現代の職場で「死の恐怖」を敏感に察知しています。 上司からの厳しい指摘や、同僚の冷ややかな評価。思考脳は「ただの仕事上のことだ」と整理しようとしますが、原始脳はそれを「群れからの追放(=死)」と誤認します。
その結果、あなたの脳内では凄まじい内乱が起こります。
「給料のために頑張れ!」と叱咤する思考脳に対し、原始脳は「肉も出ないのに無駄なエネルギーを使うな!」「評価が下がるのが怖い、ここから逃げろ!」と、焦燥感や無気力というブレーキを全力で踏み込みます。
あなたが仕事で感じる強烈な「だるさ」や「恐怖」は、あなたが甘えているからではありません。「未来の数字」を信じる思考脳と、「今、この瞬間の安全と効率」しか見えない原始脳が、一人の人間の中で綱引きをしている結果なのです。
【人間関係】SNSという「地獄の序列確認」
ベッドの中で無意識に開くインスタグラムやX(旧Twitter)。
そこには、自分より遥かに人生を謳歌しているように見える「誰か」がいます。
「おめでとう」というコメントの裏側で、胸の奥がチリチリと焼けるような感覚。
これは、原始脳が持つ「群れの中での序列確認」という機能が暴走している状態です。
他人の成功を「自分の生存権を脅かす危機」と誤認し、嫉妬や劣等感という猛毒を脳内に流し込みます。
この比較のループにハマっている限り、心に安らぎが訪れることはありません。
【将来】正解のない迷路を走らされる疲弊
「新卒で入社し、結婚し、家を建て、老後に備える」という、かつての「群れの正解ルート」は崩壊しました。
正解だと思っていた価値観が幸せを呼び寄せるツールではない、と気づいた瞬間に不安が押し寄せます。
「このままでいいのか?」という漠然とした不安。
それは、地図を持たずに霧の中を走らされている原始脳のパニック状態です。
1-3. 心理学から見た「幸福度が低い人」の共通点
なぜ、一部の人は軽やかに人生を楽しみ、あなたはこれほどまでに苦しいのか。
そこには心理学的な「思考の癖」が関わっています。
「べき論」という名の呪縛
私たちは成長の過程で、膨大な「正解リスト」を脳内に構築します。
「30代ならこうあるべき」「社会人ならこうすべき」。
心理学で「イラショナル・ビリーフ(不合理な信念)」と呼ばれるこの思考は、原始脳が「群れから嫌われないように」と作り出した防衛マニュアルです。
しかし、このリストに従おうとすればするほど、本来のあなたの「楽しい」という感情は押し殺され、人生は「こなすべきタスクの山」へと変貌していきます。
学習性無力感のループ
何度も期待を裏切られ、挑戦しては挫折した経験を持つ脳は、「学習性無力感」という状態に陥ります。
「どうせ何をしても変わらない」「楽しもうとするだけ無駄だ」。
これは、脳がこれ以上傷つかないために、あなたを「無気力」という名の安全なシェルターに閉じ込めている状態です。
あなたが人生を楽しめないのは、あなたの心の問題でも環境のせいでもなく、脳があなたを守るために「感情のスイッチ」を切ってしまった結果なのです。
第2章:日常に潜む「原始脳の防衛」|なぜ不快な感情が止まらないのか
第1章でお話しした通り、私たちの脳内では「安心を最優先する原始時代の番人(原始脳)」と、「幸福を追い求める現代の開拓者(思考脳)」が、一つの舵を取り合って常に火花を散らしています。
ここで心に刻んでいただきたいのは、あなたが今抱えている「人生の楽しめなさ」や、どろりとした負の感情は、決して性格や考え方ではないということです。
それどころか、それは過酷な大自然の中であなたという命を絶やさないために、数万年かけて磨き上げられてきた、生命維持のための「極めて正当な防衛反応」なのです。
例えるなら、あなたは最新のハイウェイ(現代社会)を、超高性能な「自動ブレーキシステム(原始脳)」を搭載したまま走っているようなものです。
このシステムは、障害物がない場所でも「影」を見ただけで急ブレーキをかけ、あなたの加速(楽しさ)を邪魔します。
なぜ、この優秀すぎる防衛本能が、現代ではあなたの人生を縛る「枷」になってしまうのか。
私たちの日常を侵食する3つの感情の正体を、例を挙げてお伝えします。
2-1. 嫉妬とマウント:群れの安全を確認する「命のセンサー」
友人の結婚や昇進を素直に喜べず、黒い感情が渦巻く自分を「最低だ」と責める必要はありません。
他人の成功を見て胸がざわつくのは、あなたの心が狭いからではなく、原始脳が「群れの中での生存順位」を必死に守ろうとしている防衛活動の結果です。
原始時代の過酷な環境において、群れの中のランキングが下がることは、そのまま「死」へのカウントダウンを意味しました。
食料は順位が高い者から分配され、安全な寝床も、子孫を残す権利も、すべて上位者に独占される世界。
他人が自分より優れた状態になることは、原始脳にとっては「自分の取り分が奪われ、命が脅かされるアラート」だったのです。
現代においてSNSのキラキラした日常を見て沸き起こる嫉妬は、いわば「火災報知器」のようなものです。
隣の家(友人)が豪華な内装にリフォームしただけなのに、あなたの脳内の報知器は「火事だ!このままではお前の居場所が焼失するぞ!」と大音量で警告を鳴らしているのです。
落ち着いて考えるとそんな馬鹿な話はない、と笑い飛ばせるのですが、原始脳にとっては冗談ではないのです。
また、マウントを取る行為も、自分の強さを誇示し安心や心地よさを得ようとすることで「俺を攻撃するなよ」と周囲を威嚇する、ハリセンボンの針のようなもの。
性格の良し悪しではなく、数万年前から受け継がれた「生き残るための正義」が、過剰反応しているだけなのです。
2-2. 「言い訳」という名の、命を守るための「超高性能ブレーキ」
「お金がない」「時間がない」「才能がない」。
新しい扉を開こうとする瞬間に頭をもたげるこれらの言葉は、あなたの意志の弱さではありません。
原始脳が、あなたを危険な未知の世界へ行かせないようにかけている、「最強の安全ロック」です。
原始脳にとっての最優先ミッションは、あなたに「幸福」を与えることではなく、明日も「生存」させていることです。
今日まで生き延びてこられたのであれば、その「退屈な現状」こそが唯一の正解であり、そこから一歩でも外れる「変化」は、猛獣の群れに飛び込むような自殺行為に見えています。
どれほど今の人生が灰色でも、死んでいない限り、原始脳はその「檻の中」を全力で死守しようとします。
「言い訳」とは、あなたが新しい世界で傷つき、命を落とすことを防ごうとする、原始脳なりの「過保護すぎる親心」です。
あなたが現状に留まろうとするのは、脳があなたという個体を守り抜こうとする、生命としての真っ当な、そして懸命な愛の反応なのです。
2-3. 「損得勘定」という、命を繋ぐための「家計簿」
何かを始める前に「これは何の役に立つのか?」と考えてしまうのは、原始脳が常に「生存のための投資対効果」を監視する会計士だからです。
自然界において、無目的なエネルギーの浪費は即、死に直結しました。
獲物がいるかどうかも分からないのに全速力で走るような個体は、すぐに餓死して淘汰されたはずです。
そのため、原始脳はすべての行動に対し、「そのカロリー消費は、生存のプラス(得)になるのか?」という厳しい検閲をかけます。
「ただ面白いから」という思考脳の純粋な欲求は、原始脳という会計士から見れば「根拠のない無駄遣い」に他なりません。
その結果、多くの現代人が「得にならない楽しさ」という色彩豊かな感情を、原始脳の検閲によって次々とシュレッダーにかけてしまいます。
こうして私たちは、生存には有利だけれど、色彩を失った「無味乾燥な合理性という名の部屋」に、自らを閉じ込めてしまうのです。
「原始脳 vs 思考脳」人類最大のミスマッチ:なぜあなたの理性は本能に勝てないのか
「人生を楽しみたい」という願いがこれほどまでに叶いにくいのは、私たちの頭の中に、「製造時期が数万年も違う2つのOS」が同居しているからです。
このセクションでは、あなたの内側で起きている構造的な内乱の正体を、歴史と物理の視点から解き明かしましょう。
1. ハードウェアは石器時代のまま:最新スマホを操るマンモスハンター
想像してみてください。最新の超高速5G通信が可能なスマートフォンに、1980年代の巨大なコンピューターを動かしていた古びたOSが無理やりインストールされている様子を。
それが、私たちの脳の現状です。
私たちの文明は、ここ数千年で劇的に進化しました。
しかし、人間の脳のハードウェアが最後に大規模なアップデートを受けたのは、今から約数万年前。
私たちが槍を持ってマンモスを追いかけ、洞窟で火を囲んでいた原始時代です。
意思の疎通や火を使うことを覚え、動物から人間になったあの頃です。
だから原始脳にとっては、現代社会はあまりにも「未知」で「異常」な場所なんです。
- 原始脳の視点:満員電車は「敵に囲まれた絶体絶命の危機」
- 原始脳の視点:上司の叱責は「群れからの追放=死の宣告」
- 原始脳の視点:未読スルーは「仲間外れにされる生存リスク」
スマホを使いこなし、宇宙にロケットを飛ばす現代人も、その頭蓋骨の中には「サバンナの生存ルール」を金科玉条とするマンモスハンターが住み着いているのです。
この絶望的なミスマッチこそが、あなたが感じている生きづらさの正体です。
2. 理性が本能に勝てない物理的な理由:情報伝達の「速度差」
「カッとなって言い過ぎてしまった」「ダメだとわかっているのに食べてしまった」。
こうした失敗をしたとき、私たちは「なんであんなこと言ったんだろう、なんであんなことしたんだろう」と嘆きます。
しかし、これは意志の強さの問題ではなく、脳の「配線の仕組み」による必然です。
外部からの刺激(ストレスや誘惑)が入ってきたとき、脳内では情報の熾烈なレースが始まります。
- 原始脳(扁桃体など)へのルート:最短・最速。感情を爆発させ、身体を強張らせるまでわずか0.0数秒。
- 思考脳(前頭前野)へのルート:複雑・低速。冷静に状況を分析し、判断を下すまでには原始脳の数倍から数十倍の時間がかかります。
つまり、理性が「ちょっと待て、それは損だぞ」と判断を下す前に、原始脳がすでに「怒れ!」「逃げろ!」「食え!」という強力な化学物質を全身にブチ撒けてしまっているのです。
火事の現場で、消防車(思考脳)が到着する頃には、放火魔(原始脳)がすでに街を焼き尽くしているようなもの。
この「物理的な速度差」がある以上、正面から本能と戦って勝てる人間など、この世には存在しません。
根拠となる論文:2024年に発表された最新の研究成果です。大脳辺縁系(原始脳に相当)で生まれる「感情」と、前頭前皮質(思考脳に相当)による「理性的・認知的」な制御のメカニズムを解説しています。(京都大学)
3. 「悩む」という行為の嘘:思考脳は原始脳の「言い訳担当」である
ここが最も残酷で、かつ解放的な事実です。
私たちは「何か悩みがあるから、苦しい」と思っています。
しかし、実際はその逆であることがほとんどです。
まず、原始脳が現代の刺激(不快、空腹、嫉妬など)に過剰反応し、身体に「不快な感覚」を発生させます。
すると、後から追いついてきた思考脳は、この「不快な感覚」に対して強引に理由を後付けし始めます。
- 「このモヤモヤは、あの時の上司の発言のせいだ」
- 「この不安は、将来の貯金額が足りないせいだ」
- 「このイライラは、夫の家事のやり方が悪いせいだ」
これが「悩みの捏造」です。
思考脳は、原始脳が吐き出した「得体の知れない不快感」を処理するために、周囲の環境から無理やり犯人(理由)を探し出し、ストーリーを作り上げます。
あなたが夜も眠れずに悩んでいることの8割は、実は原始脳が鳴らした「ただの誤作動アラート」に対して、思考脳が勝手に作り上げたフィクションに過ぎません。
しかも、何度もネガティブな物語を作りだします。
実は、悩みとは自分が作り出した物語の中でもがき苦しんでいる結果として現れる心理状態なんです。
悩むという行為は、実は思考脳のエネルギーを無駄遣いし、原始脳の暴走を正当化しているだけなのです。
この構造を理解したとき、あなたは「悩むこと」そのものを放棄し、「あぁ、また脳が勝手にストーリーを作っているな」と笑い飛ばす権利を手に入れるのです。
第3章:なぜ「一般的な解決策」では、あなたの心は晴れないのか
「人生が楽しくない」と悩む時、私たちはまず世の中に溢れる解決策を頼りにします。
ポジティブな本を読み、環境を変え、趣味を探し、マインドフルネスを試す。
しかし、一時的に気分が晴れることはあっても、数日後にはまた元の重苦しい感覚に戻ってしまう。
そんな経験を、あなたも何度も繰り返してきたはずです。
なぜ、どれほど努力しても虚しさが消えないのでしょうか。
それは、あなたが試してきた方法のほとんどが、「思考脳」という表面的な部分にしかアプローチしていないからです。
3-1. ポジティブ思考が逆効果になる理由
「もっと前向きに考えよう」「感謝の気持ちを持とう」。
そんなアドバイスは、現代の至る所に溢れています。
しかし、原始脳が「今の環境は序列が低くて危険だ!」「変化するのは死のリスクだ!」とアラートを鳴らしている最中に、思考脳だけでポジティブを装うのは、燃え盛る火事に霧吹きで水をかけるようなものです。
むしろ、無理に明るく振る舞おうとすればするほど、原始脳は「自分の危機信号が無視されている」と判断し、さらに強い不安や焦燥感を送り込んできます。
思考脳が叫ぶ「幸せになりたい」という声が、原始脳の「生存の恐怖」に力負けしてしまう。
これが、意識高い系のメソッドを試した後に訪れる、あの激しい疲弊感の正体です。
3-2. 「やりたいこと探し」という底なし沼
「今の人生が楽しくないのは、本当にやりたいことが見つかっていないからだ」。
そう信じて、資格取得や新しいコミュニティへの参加、あるいは転職を繰り返す人も少なくありません。
しかし、ここにも大きな罠が潜んでいます。
私たちが「やりたいこと」を探そうとする時、無意識に原始脳のフィルター」を通した選択をしています。
「これをやれば他人に認められるか?(序列)」「これは将来の安定に繋がるか?(損得)」。
こうした原始脳の動機に基づいた「やりたいこと」は、手に入れた瞬間にその輝きを失います。
なぜなら、それはあなたの心が震える「純粋な喜び」ではなく、単なる「生存のための条件」に過ぎないからです。
条件を満たしても、原始脳はすぐに「次の不安」を見つけ出します。
その結果、あなたは一生「何かが足りない」という欠乏感を抱えながら、終わりのない探し物を続けることになるのです。
3-3.一般理論が語らない「現代の生存戦略」の限界
多くの心理学や自己啓発は、「あなたの心の持ちよう」を説きます。
しかし、根本的な問題は、あなたの心(精神)ではなく、「脳の構造と現代環境のミスマッチ」にあります。
原始脳は、物理的な死が隣り合わせだった時代のOS(基本ソフト)です。
一方で、現代は「意味」や「自己実現」を求める高度な文明社会です。
この数千年から数万年の乖離(かいり)がある以上、精神論だけで解決しようとするのは土台無理な話なのです。
私は「人生が楽しくない」という悩みは、心理学の領域ではないと思っています。
それは、あなたの内側で暴走し続ける原始脳の機能を正しく理解し、その「飼い慣らし方」を学ぶという、いわば脳のガバナンス(統治)の問題なのです。
これまであなたが救われなかったのは、あなたが悪かったからでも、方法が間違っていたからでもありません。
ただ、解決すべき「階層」が違っていただけなのです。
第4章:原始脳の支配を解き、人生を奪還する技術
ここまでの話で、あなたの苦しみの正体が見えてきたはずです。
「人生が楽しくない」という感覚は、あなたの心が弱いからではなく、原始脳がその生存本能を忠実に、あまりにも実直に果たし続けている結果です。
では、私たちは一生、この数万年前の古いOSに振り回されて生きるしかないのでしょうか。
答えは「ノー」です。
私たちは、原始脳を消し去ることはできませんが、その「発言権」をコントロールする術を持っています。
4-1. 「思考」と「原始脳」を切り離す分離技術
まず最初に行うべきは、自分の中に湧き上がる不快な感情を「自分の意志」だと勘違いするのをやめることです。
嫉妬、マウント欲、変化への恐怖、損得勘定。
これらが頭をもたげたとき、心の中でこう呟いてみてください。
「あ、今、私の原始脳が生存確認をしているな」と。
これは心理学で「脱フュージョン」と呼ばれる技法に近いものですが、より本質的な「脳の主導権争い」です。
感情を自分自身と同一視するのではなく、飼い慣らしている「ペット」の鳴き声のように客観視する。
「また原始脳が、隣の芝生を見て序列の不安を煽っているな」「また損得を計算して、新しい挑戦を止めようとしているな」。
そうやって一歩引いて観察した瞬間、原始脳の支配力は劇的に弱まります。
あなたは、自分の感情の「被害者」から、脳の「管理者」へと昇格するのです。
4-2. 原始脳が最も嫌う「無駄」の中に、楽しさは宿る
原始脳の行動原理は、徹底した「今だけ・損得だけ・自分だけ」です。
だからこそ、私たちが人生の楽しさを取り戻す鍵は、その真逆、つまり原始脳が「そんなの無駄だ!」と切り捨てようとする領域にあります。
何の役にも立たない趣味、リターンのない親切、誰にも見せない創作。
原始脳はこれらを「エネルギーの無駄遣いだ」と必死に止めにかかります。
しかし、思い出してみてください。
あなたが子供の頃、時間を忘れて熱中していたのは、すべて「無駄なこと」ではなかったでしょうか。
損得を度外視し、ただ「面白い」という感覚だけで動くとき、私たちの思考脳も原始脳もお休みしているので、真の解放感を味わうことができます。
人生を楽しむとは、原始脳と上手に折り合いをつけることと同義なのです。
4-3. 覚悟を決める:「人生楽しんでナンボ」という唯一の真理
ここで、あなたの人生を定義し直すための、究極の視点を提示します。
原始脳は、あなたを「生き残らせる」ことには長けていますが、あなたを「幸せにする」機能は持ち合わせていません。
原始時代では寿命が今よりはるかに短かったからです。
死がすべてを解決してくれたので、幸せという概念は必要でなかったのです。
ところが、80年以上も生きる現代で、幸せや満足を感じないまま生きるとはどういうことか分かりますか?
放っておけば、脳はあなたを「安全で、退屈で、常に他人と比較して怯える日々」の中に閉じ込め続けるのです。
冷静に考えてみてください。
宇宙の長い歴史から見れば、人間の寿命など瞬きの一瞬に過ぎません。
その一瞬を、原始脳が作り出す「生存のための不安」に費やして終わるのか。
それとも、脳の性質を笑い飛ばし、自分の「やりたい」という直感を信じて使い切るのか。
「人生、楽しんでナンボ」
この言葉は、単なる楽観主義ではありません。
暴走する原始脳に対する、思考脳による「宣戦布告」であり、自由への鍵です。
損をしてもいい、序列が下がってもいい、誰に笑われてもいい。
そう覚悟を決めた瞬間、原始脳はあなたを縛る鎖から、あなたを突き動かすエネルギー源へと姿を変えます。
第5章:今日から始める「人生奪還」|原始脳を黙らせる最初の一歩
理論を理解しただけでは、数万年かけて構築された原始脳のシステムは変わりません。
大切なのは、思考脳を使って原始脳に「新しいルール」を教え込む、具体的なアクションです。
あなたが今日、この記事を閉じた直後に実践できる、最も小さく、かつ強力なステップをお伝えします。
5-1. 「損得」ではなく「面白そう」を優先する練習
今日一日、何かを選択する場面で、自分にこう問いかけてみてください。
「これは得か?」ではなく、「これは面白いか?」と。
例えば、いつもなら「安いから」「効率がいいから」と選んでいたランチのメニューを、「一度も食べたことがない、得体が知れないけれど面白そうなもの」に変えてみる。
あるいは、仕事の帰り道、いつもと同じ最短ルートではなく、あえて遠回りして、見たことのない路地を歩いてみる。
これらは、原始脳にとっては「エネルギーの無駄遣い」であり、小さなストレスです。
しかし、その「無駄」を選択するたびに、あなたの主導権は原始脳から思考脳へと移り変わります。
「私は、脳のプログラム通りではなく、自分の決定で動けるのだ」という感覚を、脳に刻み込んでください。
5-2. 感情を「実況中継」して切り離す
もし今日、誰かに嫉妬したり、将来が急に不安になったりしたら、その感情に飲み込まれる前に「実況中継」を始めてください。
「おっと、今、私の原始脳が『他人の成功』に反応して、生存順位の低下を恐れていますね。焦燥感というアラートを鳴らして、私にマウントを取らせようと必死です。ご苦労さま!」
このように、感情を「客観的なデータ」として扱う練習をしてください。
不快な感情が湧くのは、脳が正常に動いている証拠です。
それを否定するのではなく、「鳴っているアラートを横目で眺める」感覚を身につける。
これだけで、あなたの心の自由度は劇的に向上します。
5-3. 結び:人生は、原始脳を笑い飛ばしたもん勝ち
最後に、覚えておいてほしいことがあります。
あなたがこれまで「人生が楽しくない」と悩み続けてきたのは、あなたが自分の生命を、そして人生を、誰よりも真剣に守ろうとしてきた証です。
その生真面目な原始脳の働きを、まずは「今まで守ってくれてありがとう」と労ってあげてください。
ついでに「これからもよろしく」も必要ですね。
あなたの頭の中に住んでいる「原始脳」と「思考脳」、そのどちらの声を優先し、どちらに従って生きるかという決定権は、最初からあなたの思考(理性)の中にあります。
人生に、これといった崇高な目的など必要ありません。
生きている意味なんて、生まれてきた意味なんて、決まったものはありません。
人生にどんな目的を持つのか、人生に意味を付けるのは、すべて自分が決めればいいことです。
損得を捨て、比較を捨て、言い訳を捨てて、
「あぁ、今日も一日面白いことを探して、笑って過ごせた」
そう思える時間を一分でも一秒でも増やしていくこと。
人生、楽しんでナンボ。
その境地へ辿り着くために、あなたはもう、自分の脳を飼い慣らす術を知っています。
さあ、スマホを置いて、原始脳が「無駄だ」と呆れるような、あなただけの「楽しい冒険」に出かけましょう。
Q&A】原始脳と正しく付き合うための処方箋
ここまで「原始脳」の正体とその攻略法についてお話ししてきましたが、いざ実践しようとすると、新たな疑問が湧いてくるものです。
多くの人が突き当たる壁に、あらかじめ先回りして答えておきましょう。
Q1:そんなに厄介なら、原始脳を完全に「消去」することはできないのですか?
A:結論から言うと、不可能です。そして、消してはいけません。
原始脳を消し去るということは、人間としての生命活動を停止させること、つまり「死」を意味します。
心臓を動かし、肺で呼吸をし、危険を察知して瞬時に身を守る。これらのオートマチックな生命維持システムを司っているのが原始脳だからです。
私たちは原始脳を「敵」として排除するのではなく、「性質の激しい猟犬」を飼っている飼い主のようなスタンスでいるべきです。
猟犬(原始脳)は、放っておけば無駄吠えをし、通行人に噛みつこうとします。
しかし、正しく躾け(しつけ)、そのエネルギーをコントロールすれば、あなたを守る最強のパートナーになります。
原始脳を消すのではなく、その発言権を「思考脳」がコントロールする。
この「共生と統治」こそが、現代における成熟した生き方だと思います。
私の経験でも、人生を楽しもうとすると、人生に変化が訪れます。
普段何気なく見過ごしていた雲の形だって、よりきれいに見えてくるのです。
Q2:そもそも「人生を楽しもうとする」とは、具体的にどういうことですか?
A:「どんな状況下でも、意識的に楽しさの種を見つけ出そうとする姿勢」のことです。そしてそれは、原始脳を静める最強の対抗策でもあります。
多くの人は「楽しいことが起きたら、楽しむ」という受動的な姿勢でいます。
しかし、原始脳の支配から脱するには、もっと能動的な「楽しさを求める姿勢」が必要です。
たとえ目の前に山積みの仕事があっても、退屈な家事をしていても、その中に自分なりの「面白がり方」や「小さなゲーム性」を見つけ出そうとすること。
これが「楽しもうとする」という意思決定です。
なぜこれが大事なのか。
実は、あなたが楽しさを意識的に積み重ねていくと、脳内では驚くべき変化が起こります。
第一に、楽しさに没頭している間、原始脳の「不安アラート」は鳴り止みます。
原始脳は「快」を感じている状態では、攻撃性や不安を抑える性質があるからです。
楽しさを積み重ねることは、いわば暴れる猟犬に極上の好物を与えて、おとなしく眠らせるようなものです。
第二に、楽しさを選択し続けることで、あなた自身を包むエネルギーの質(バイタリティ)が劇的に高まります。
原始脳の「損得・自分だけ」という縮こまったエネルギーではなく、思考脳が主導する「開放・循環」のエネルギーが溢れ出すのです。
エネルギーが高まれば、かつては恐怖でしかなかった「変化」や「挑戦」さえも、面白いアトラクションのように見えてきます。
「楽しんでナンボ」とは、決して現実逃避ではありません。
どんな逆境の中にいても「さて、ここをどう面白がってやろうか」と決定権を握り続けること。
その積み重ねが、原始脳という檻を溶かし、あなたを本当の自由へと連れ出してくれるのです。
Q3:仕事はどうしても楽しめません。原始脳理論に従えば、今すぐ辞めるべきでしょうか?
A:辞めるという大きな決断を下す前に、一度だけ「今の仕事の中に楽しみを見つけようとしたか?」を自問してみてください。
もちろん、どうしても合わない環境はあります。
しかし、原始脳の支配下にあるまま場所だけ変えても、次の場所でまた同じ「不快のアラート」に振り回される可能性が高いのです。
ここで、人間関係の悩みを一瞬で激減させる強力な視点をお伝えします。
それは、「上司の頭にも、同僚の頭にも、等しく原始脳が住んでいる」という事実を理解することです。
あなたを怒鳴りつける上司も、嫌味を言う同僚も、実は彼ら自身の「原始脳」に操られている可能性が高いのです。
「あの上司は今、原始脳が『群れの序列』を誇示して安心しようとしているんだな」 「この同僚の嫌味は、原始脳が『嫉妬』という防衛反応を起こしている証拠だな」
相手の言動を「人格」として受け取るのではなく、「相手の原始脳がどんな生存戦略を選択してその言動に至っているのか」を推測するゲームに切り替えてみてください。
この「観察者の視点」を持つだけで、心に驚くほどの余裕が生まれます。
私のクライアントの中にも、職場の人間関係でボロボロになっていた方がいましたが、この「人が原始脳にどう操られているか」を観察するようにした途端、他人の言動に対する恐れが激減したと言っていました。
「あぁ、また原始脳が暴走しているわ」と冷静に見守れるようになったのです。
今の仕事そのものを楽しむのが難しければ、まずは「人間関係という名のサファリパークで、原始脳の生態を観察する」という楽しみから始めてみてください。
その余裕を持った上でもなお「この場所ではない」と思考脳が判断したのなら、その時こそが本当の辞め時です。
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